ノアの箱船

 さて、アダムの子カインは追放されてあちこちを放浪し、子どもをたくさん作りました。アダムとイブの世代から数えて10代目にノア登場。人々はすでに堕落した生活を送っていたのです。怒った神は大洪水を起こして地上から人間をなくしてしまおうと考えます。


 そして神を敬うノアだけに、箱舟をつくって家族と地上のすべての生き物をひとつがいずつ乗せるよう指示します。


 神はノアに言いました、「木の箱船を作って、世界中のつがいの動物や鳥などを載せなさい。わたしは地上に洪水をもたらし、命の霊をもつ、すべて肉なるものを天の下から滅ぼす。地上のすべてのものは息絶える」


 ということで、具体的にどの大きさなのか、指示します。(世界中の動物を載せるには、ずいぶん小さめだと思うけど……)
 人々はノアをあざけりますが、ノアは断固として決行。世界中の動物や鳥や植物などが箱船に入ると、神の言っていたとおり大雨が降り、やがてそれは大洪水へと発展していきました。こうして四〇日四〇夜大雨が降り続け、地上は水浸しになりました。すべての人々や動物たちはことごとく死にたえました。
 
 ちょっと脇道。
 ここに四〇日四〇夜とありますが、実際にその期間降ったわけじゃありません。(降った、という人もいますが、その間箱船のなかの動物たちの糞尿とかどうしたんだろう……)。それだけ長期間降ったという、たとえのようなものです。


 この日数は、西洋では「待ちくたびれた」とか、「焦れていた」とか「疲労困憊」とか、そういった意味に使われることがあるようです。たとえばマイケル・ジャクソンの楽曲『ビリー・ジーン』の一部には、こんな歌詞があります。

For forty days and for forty nigths
The Law was on side
But who can stan
When she’s demand?

 四〇日間昼も夜も
 法律は彼女の味方
 彼女の強い欲求に
 いったい誰が耐えられるのか

これを聖書的に解釈すると、ビリー・ジーンという天災に対して、マイケルが苦難を訴えるという形になっているわけです。歌詞ひとつ取ってみても、裏側がわかると楽しいですよね。

話を聖書物語に戻します。
 箱船の生活は続きました。食料もつきかけた四〇日目、雨がやんだのでカラスを放ってみましたが、カラスはなかなか偵察に行ってくれません。箱船の上でくるくるしているだけです。

 そこでハトを放ってみますと、これは偵察に行ってくれましたが、箱船の停泊所が見つからず、もどってきました。さらに七日待って、ノアは再びハトを箱船から放ちました。見ると、ハトはくちばしにオリーブの葉をくわえていました。さらに七日待ってハトを放つと、もうハトは戻ってきませんでした。これによりノアは水が引き始め、神の罰である洪水が終わったことを知るのです。


 「ハトが平和の象徴」というイメージが世界的に広まったのは、1949年にパリで開かれた「第一回平和擁護世界大会」のポスターのためにピカソが制作したハトの絵がきっかけと言われています。ノアの箱船をモチーフにした「オリーブの枝とハト」は、神と人間の和解のシンボル、人間が神との和解によって得た平和な世界を共に築いていく、平和を象徴するシンボルとなりました。
 

 ちなみにノアの箱船のお話は、メソポタミア神話の『ギルガメシュ叙事詩』にそっくりで、メソポタミア神話からの盗作だとする人もいます(コレを言うと逆上する人もいるけど)。
 ギリシャなど世界中に洪水伝説が残ってるという話もあり、氷河期から人類が脱却するまでの伝説が残っているのだろう、とする人もいます。


 このあと、神はノアと契約します。二度と洪水を使って地上のものを滅ぼさない。そのあかしに、虹を架けよう。虹が架かる度に、ノアとの契約を思い出す、と。
 虹が希望を象徴するのは、ここから来ています。

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