父として

親切な妖狐の鈴音は、気がかりだった。今日は成人の日。白地にピンクの振り袖の女性が、公民館に入ろうとしている。目の前のその女性には、見知らぬあやしい影がつきまとっていた。鈴音は影に問いかけた。
「何ものじゃ」

影は、ギクリとこわばったが、
「話を聞いてください。今年二十歳になった夕子が気がかりなんだ。交通事故で死んでから十年、ずっと父親の幽霊としてあの子を見守ってきた。きみにぼくが見えるなら、あの子にも見えるかな」

声をかけ、手を振ってみるが、相手の反応はない。がっかりした影は薄くなって、透明になりそうだ。そこで鈴音は、申し出た。

「手紙を運んでやるぞ」
父親はずっと黙っていたが、ふと思いついて、鈴音に口述した手紙を、ごく自然に託した。

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