謝りたいこと

シリーズ 『夕焼け雲を追いかけて』 #03

インフルエンザが流行るなか、秀人のお姉さんが入院した。秀人にはお姉さんに、謝りたいことがある。そこで、お母さんにだまって、こっそり病院に出かけた。

ところが看護師さんが見張っていて、ベッドにたどり着くことができなかった。秀人は、お姉さんの旦那さんに言った。

「実はぼく、お姉さんの結婚指輪を、隠してしまったんだ」

「なんでそんなことを」

旦那さんが驚くと、秀人くんは、

「だって大きくなったら、ぼくと結婚するって約束を破ったんだもの。だけど、お姉さんに指輪を返したら、病気が治るんじゃないかと思うんだ」

旦那さんは言った。

「あいつは病気じゃないんだ。子どもが出来たんだ。それで太ったから、指輪がはまらないと思うよ」

初恋のシャッターチャンス

『夕焼け雲を追いかけて』 #02

あの子がやってくる。ぼくは胸がドキドキしてくるのを感じた。修学旅行先にあった、土産物屋から歩いてくる。

すぐ目の前をとおりかかった。ぼくはじっとり汗ににじむ手の中のカメラを差し出し、

「あの、キミを撮っていいですか?」

「いいけど、先生が来ちゃった」

あの子は、無邪気な様子で言った。

こんなところを先生に見られたら、カメラを取り上げられるかもしれない。ぼくはあわてて服の下にカメラを隠した。

先生がぬうっと現れた。まだ来ていなかったらしい。先生は、ジロリとぼくをにらんで、そのままあの子と立ち去った。

ぼくの初恋は、告白できなかった。

来ちゃった、というのがその子の故郷では、いらっしゃった、という意味の敬語だと知ったのは、大人になってからである。

茶柱が立った!

シリーズ「夕焼け雲を追いかけて」#01

「茶柱が立った!」
お店でお茶を飲んでいたら、茶柱が立った。
「おめでとうございます。願いごとはなんですか?」茶柱から声がした。どうやら、茶柱の神が現れたらしい。
「そうね、いちど極楽ってところを見学したいのよね」わたしが言うと、茶柱の神は、
「いやいや、あなたなら地獄行き間違いなし」
「どういう意味よ」言い返しながら見やると、きつねの尻尾が生えている。
「あーっ」わたしが尻尾を示すと、茶柱の神はお尻を隠しながら、
「これはオモチャ!」
「なら、つねっても痛くないね?!」
「ひゃ~~~」
「おさげしまーす」
給仕の女性が、湯飲みを片付けてしまった。
茶柱の神は、しおしおと店を出て行った。