わたしのボールペンは、手にしっくりくるように、細長く出来ている。長さは十四センチ、幅は一センチ弱。
持ち手に黒いゴム腹巻きが巻かれたこのボールペンは、芯を押し出す箇所が丸いポッチになっている。腹巻きのそばには細長いラベルも貼ってあった。ラベルは銀色、黒い小さい文字で、「ノック式ボールペンBLACK(油性)」と書かれている。このボールペンは高校卒業の時に、友だちのMさんからプレゼントされたものだ。貧血気味のMさんの顔色はこのボールペンの色、銀色のラベルは、私たちの夢のようだった。
このボールペンには、Mさんのしていた透明なヘアピン風の突起物があり、これに触ると、ポッチで押し出していたボールペンの芯が、亀の子の頭みたいに引っ込む。Mさんのくせそっくりである。
Mさんとわたしは、古典や数学の授業も上の空で、ノートをやりとりして創作ごっこを楽しんでいたのである。好きなファンタジーを、設定もなにも考えずに突っ走って書いていた。Mさんの使っていたのは、マンガ専門用具のGペンだった。わたしの原作でマンガを描いていたMさんは、
「鉛筆で文章を書くより、ちゃんとした道具で書いた方がいいよ」
頭をひょいと引っ込めて言った。
わたしはシャーペンで創作することはやめなかった。書き直しが簡単だったからもある。ボールペンで書くときには、紙にインクの涙が流れる。万年筆は、高かった。Mさんは、とうとう卒業するまで、道具の大切さを訴え続けていた。
Mさんからこのボールペンをもらった時のこと。
「まだインクが残っているのが透けて見えるのに、インクが出なくなったりもするから、一気呵成に書いちゃうあなたには、冷静になれるいいチャンスだね」
早く仕上げたいという気持ちはわかるけど、拙速じゃいけません。投稿前に3回は見直しなさいよ、とMさんは助言してくださったのだった。