シミ取り(四日後)
八万円かけてシミを取る前、私はずっと他人の目を気にしていた。
文章講座で先生に質問したときのこと。ある生徒が、鋭い視線で私を見つめていた。
あの人は、私のシミを見ていたのだろうか。
「人は見かけが九割」という本のタイトルが脳裏を駆け巡った。
一月三十一日の呉でのランチ会。友人たちに、シミだらけの顔を見せたくない。だから、施術の時期をずらした。
三ヶ月後の五月はゲームイベント。ゲームユーザーのみんなが私の顔を見て、魅惑されるに決まっている。
だから、八万円かけてシミを取った。
施術後四日。
ひさびさにじっくり義母と顔を合わせたら、義母ったら開口いちばん、
「まあ、みっともない!」
顔に広がるシミだらけが衝撃的だったらしい。
私もひそかにショックを受けていたから、面と向かって言われるとキツイ。今までシミのことはひと言も言わなかったのに、よほど気になったのだろう。
夫がフォローを入れる。
「今まではシミありの三毛猫だったけど、今はサビ猫だよね。でも、三カ月後には、前よりずっと可愛い三毛猫になるんだよね」
私が「そうよ、キレイになる」と主張すると、義母は言った。
「キレイは期待してない。三カ月後にはもっと可愛くなってるんでしょう? そっちを期待してるよ」
義母は微笑んで付け加えた。
「十三日のサークル活動は、マスク必須ね」
三ヶ月後は五月。ゲームイベント。ゲームユーザーのみんなが私の顔を見て魅惑されるに決まってる。
私がそう言うと、夫は言った。
「そんなに人の顔はジロジロ見ないよ」
ああ、そうか。
私は、みんなが私の顔を見ていると思っていた。
文章講座のあの鋭い視線。ランチ会の友人たち。ゲームイベントのユーザーたち。
みんなが、私のシミを見ているような気がしていた。
だから、八万円かけてシミを取った。
でも、夫の言う通りなら、誰も私の顔なんてジロジロ見ていない。
あのとき、文章講座の生徒は、本当に私のシミを見ていたのだろうか。
それとも、私が勝手に「見られている」と思い込んでいただけなのだろうか。
私が気にしているほど、他人は私の顔を見ていないのかもしれない。
じゃあ、私は何のために八万円使ったのだろう。
サビ猫の私は、マスクをして、十三日のサークル活動に行くのだった。


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