2026年2月6日  シミ取り(4日後)

シミ取り(四日後)

八万円かけてシミを取る前、私はずっと他人の目を気にしていた。

文章講座で先生に質問したときのこと。ある生徒が、鋭い視線で私を見つめていた。

あの人は、私のシミを見ていたのだろうか。

「人は見かけが九割」という本のタイトルが脳裏を駆け巡った。

一月三十一日の呉でのランチ会。友人たちに、シミだらけの顔を見せたくない。だから、施術の時期をずらした。

三ヶ月後の五月はゲームイベント。ゲームユーザーのみんなが私の顔を見て、魅惑されるに決まっている。

だから、八万円かけてシミを取った。


施術後四日。

ひさびさにじっくり義母と顔を合わせたら、義母ったら開口いちばん、

「まあ、みっともない!」

顔に広がるシミだらけが衝撃的だったらしい。

私もひそかにショックを受けていたから、面と向かって言われるとキツイ。今までシミのことはひと言も言わなかったのに、よほど気になったのだろう。

夫がフォローを入れる。

「今まではシミありの三毛猫だったけど、今はサビ猫だよね。でも、三カ月後には、前よりずっと可愛い三毛猫になるんだよね」

私が「そうよ、キレイになる」と主張すると、義母は言った。

「キレイは期待してない。三カ月後にはもっと可愛くなってるんでしょう? そっちを期待してるよ」

義母は微笑んで付け加えた。

「十三日のサークル活動は、マスク必須ね」


三ヶ月後は五月。ゲームイベント。ゲームユーザーのみんなが私の顔を見て魅惑されるに決まってる。

私がそう言うと、夫は言った。

「そんなに人の顔はジロジロ見ないよ」


ああ、そうか。

私は、みんなが私の顔を見ていると思っていた。

文章講座のあの鋭い視線。ランチ会の友人たち。ゲームイベントのユーザーたち。

みんなが、私のシミを見ているような気がしていた。

だから、八万円かけてシミを取った。

でも、夫の言う通りなら、誰も私の顔なんてジロジロ見ていない。

あのとき、文章講座の生徒は、本当に私のシミを見ていたのだろうか。

それとも、私が勝手に「見られている」と思い込んでいただけなのだろうか。

私が気にしているほど、他人は私の顔を見ていないのかもしれない。

じゃあ、私は何のために八万円使ったのだろう。

サビ猫の私は、マスクをして、十三日のサークル活動に行くのだった。

 


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