墓じまい(09)

墓じまい(09)

わたしから見るに、夫にとって、幼い頃に祖母とともに育ててくれたO家のKさんは、特別な存在だったに違いありません。Kさんは天理教の教徒でしたが、O家に嫁ぎ、若くしてこの世を去りました。今、そのO家の「墓じまい」という難題が、夫と夫の家族に降りかかっています。

この墓じまいは、想像以上に煩雑な行政手続きを必要としました。墓が市に管理されているため、遺骨を一箇所(絆という墓地)に移すための『改葬(かいそう)申請』を区役所に提出しなければなりません。その手続きの過程で、予想外の壁に直面しました。O家には直系の子供がいないため、Kさんの姪にあたる義母が申請者となる必要があったのです。

さらに、区役所が要求したのは、Kさんの父親の戸籍謄本でした。これは、義母様がKさんとその夫(O家)の血縁を公的に証明するためです。義母様から見て、亡くなったO氏との続柄は、Kさんの甥・姪の子である「姪孫(てっそん)」ではなく、姪(姉妹の子)にあたるとみられますが、いずれにせよ疎遠になっていた遠い親戚の戸籍を辿らなければならないという事実は、手続きの難しさを象徴しています。しかも、区役所への出頭は、足元がおぼつかない義母様に代わって行うことができないため、大きな負担となりました。

行政手続きの煩雑さに加え、夫は宗教的な側面の懸念も抱きました。仏教でいう「魂抜き」や「閉眼供養」のように、天理教にも遺骨を移す際の儀式があるのではないか、と夫は考え、独自に調査を開始しました。

その結果、天理教にも「閉眼式」という儀式があることが判明しました。しかし、その儀式を執り行えるのは、Kさんが生前所属していた教会のみという決まりがありました。遠い親戚であるKさんが、一体どの教会に所属していたのか、手がかりは何もありません。この事態に、区役所の担当者は「教会に問い合わせて特定してほしい」と言うだけで、具体的な助けはありませんでした。

八方塞がりの状況の中、夫は藁にもすがる思いで、一番近い天理教の支部へ問い合わせをしました。すると、支部の担当者からは「市営の無宗教の墓に入っていて、別の無宗教の墓に移転するなら、特に儀式は要りませんよ」という、意外な回答が返ってきたのです。

この言葉に、夫は安堵した一方で、一抹の疑念を拭えませんでした。「これは所属教会ではない支部の見解だ。本来、Kさんの信仰を尊重するなら、やはり閉眼式を行うべきではないか?」—こういうことには徹底的にこだわりたい夫は、最終決断を仰ぐため、義母様に改めて相談を持ちかけました。

すると、高齢の義母様は、煩雑な手続きに疲弊していたこともあり、簡潔に言い放ちました。「閉眼式しなくていいなら、やらなくていいじゃないの」。

この**「鶴の一声」**によって、夫の信仰に対するこだわりや、手続き上の小さな懸念は一気に吹き飛び、閉眼式を行わないことが決定しました。行政手続き、宗教的配慮、そして肉親の現実的な判断が絡み合った、O家の墓じまいは、義母様の「割り切り」という形で、一つの区切りを迎えたのでした。実際にO家の墓をしまうのは11月中になろうかと思います。墓を管理している墓苑の人とも相談しなければならならないからです。手間、かかってます。

 

 


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