しわい屋

物価高が続いている。昨日まで手が届いたものが、今日は高値の花——なんてことがザラになった。

  春の足音が聞こえてくるというのに、懐は冬のまま。コスメも美容も、後回しにしっぱなし。

 そんな折に、誕生日を迎えた。

 好物が鰻だと知っている夫が、鰻屋へ連れて行ってくれた。

  店の外まで漂う、香ばしい煙の匂い。胃がぐうぐう鳴る。

 さて、メニュー看板を見上げて——目が飛び出した。

「うな重 二倍盛り 四千円」

 これがオススメだという。日本産の生きた鰻をその場で捌き、炭火で焼いてうな重にしてくれる、と。

 まあ、とりあえず入ってみようか。

 暖簾をくぐると、そこにあるのはステンレスの机とバケツ。椅子もなければ、客用のテーブルもない。どう見ても魚屋の厨房だ。しばらくすると店主が出てきて、恐縮そうに言った。

「済みません、ここ、お持ち帰り専門なんです」

 お持ち帰りで四千円! それだけ味に自信があるということか。

 小春日和のなか、店先の縁側に腰を下ろしてお重を開ける。たっぷりの鰻が、てらてらと光っていた。

 ひと口食べて——うん、たしかに美味しい。炭火の香りとタレがぴたりと合って、気分だけは大名だ。四千円の値打ちがなかったとは、とても言えない。

 ただ、食べながらもどうしても、あのメニュー看板の一文が頭を離れなかった。

「煙 (笑) 無料」

 落語(しわい屋)じゃあるまいし。わたしも百円玉で応酬すりゃよかったよ(五百円玉じゃないところがしわい)。

 


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