世間がバブル全盛期だったころ、わたしには職がなかった。
理由は単純。
成績が、悪かったから。
名古屋の短大を出ても何もすることがない。家事? できません。
そんなある日、新聞広告がデカデカと。
「コンピュータスクール大阪校開校」
わたしは決意した。
伊勢? オサラバだ。
大阪へ行こう。
最新の技術を身につけて、バリバリ働こう!
わたしは両親に学費を出して貰い、大阪でひとり、その専門学校へ通うことになった。
わたしのクラスは、紅一点。
要はクラスに女子はひとりしかいなかった。
プログラムを勉強しようとする女子は、そのころ少なかったのだろう。
真っ先に思ったこと。
周りは高卒の年下ばかりなので、カレシにはふさわしくない。
まあいい。ここへは勉強に来たんだ。結婚なんて、わたしが出来るわけがない。
だって、中学の頃に男子からは、さんざんブスって言われたもん。
ここの男子だって、油断ならない――。
こうして始業式はおわり、五月三十日にこの学校で、遠足に行くことになった。
場所は、奈良である。
奈良の大仏を見たりする、お決まりの観光コース。
遠足が終わり、シカのふんを踏みつけ、奈良公園で半分坐る学生たち。
クラスごとに列が決まっていて、わたしの列の先頭では、担任が首を捻っていた。
「おかしいなあ」
担任のあだ名は「レッサーパンダ」。わたしもひそかにファンだった。
となりの列で、声を放つ男がいる。
「なにがですか?」
振り返ると、坐ったままの、銀縁眼鏡の目つき鋭い、長身の二十代男がいた。担任と仲がよさそう。ちょっとムカついた。わたしのパンダを返せ。
レッサーパンダ先生は、おかまいなしだ。
「いや、いま点呼したんやけどな。ここに来る前といまとじゃ、ひとり多いんよ」
わたしは思わず叫んだ。
「ひとり多い? それじゃまるで、座敷わらしや!」
すると銀縁眼鏡男は、いきなり振り返った。呆れている。
「座敷わらし? そりゃあ古い!」
「悪かったわね。これでも二十歳(はたち)よ!」
会話を聞いていた担任が、「あんたら知りあい?」と聞いてきた。わたしは胸を張った。
「とんでもない。こんな失礼な男と知りあいだなんて」
「――なあ、おれのカノジョになれへんか?」
いきなり、彼は突拍子もないことを言い出した。
わたしはにらみつけた。よかろう。遊び相手ならつきあってやる。
「いいわよ」
夫となる彼とのこの出逢いが、その後、波瀾万丈のドラマになろうとは、その時のわたしには知る由もなかった。

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