夫にすすめられて、4月までの冬シーズンの乙女向けアニメ「悪役令嬢転生おじさん」を見ました。
夫は気に入って、いままでの出版済みの漫画をすべて中古で買い占めてしまいました(6,7巻はまだ届いていません)。
この本のアイデアには斬新さを感じるんですが、ストーリーには疑問点があるので、それをここで公開したいと思います。
1)グレイスと健三郎の存在意義
5巻あたりでグレイスと憲三郎は、古の竜から「世界の理に反している」といわれてしまいます。つまり、自然の摂理には合わないというわけです。ではなぜ、そんな理屈に合わないことを、竜は許したのでしょうか。それとも、強大な力に屈してなにも出来なかったのでしょうか。竜はなにもので、なぜ、学校の地下にいるのでしょうか。そして、自然の摂理をまもるべき真の存在はだれなのでしょう。一番の疑問は、理に反する異物をかかえ、なぜこの乙女ゲーム世界は存在できるのかという点です。
2)日菜子の助力
現実世界から「グレイスを助けますか?」でハイを選んだ日菜子ですが、これもひょっとすると「世界の理に反している」のかもしれません。というのも、なぜ、日菜子は憲三郎を助けることができたのかわからないからです。親子の情だけで許されるなら、この乙女ゲーム世界のセキュリティって、どうなってるのでしょうか。だれでもよそから介入出来たら、このゲーム世界はめちゃくちゃです。
3)ビーストの存在意味
魔法使いの従者としてのビースト、という設定は、魔女の使い魔としての猫やカラスからの発想の転換で面白いと思いますが、比較的平和に思えるこの乙女ゲームの世界の中で、「ビーストを育てる」意味がわかりません。強大な力を育てるには、それなりの理由があるはずです。つまり、敵との闘いです。
ハーレム系乙女ゲームの中に戦争の要素を入れるつもりなのかどうか、この辺がよくわからない。竜との対決と勝利、そして帰還という、ヒーローものにはよくあるパターンなんですが、乙女ゲームでそれをやるつもりだとしたら、「ハーレムもの」を期待していた女子からは、そっぽを向かれる可能性はあります。実際、学校の地下迷宮シーンは、わたしには退屈でした。
もっとも、「ベルばら」という、戦争ものでもコアなファンがまだいる漫画もあります。この作者は、いったい誰をターゲットにしているのか、わたしにはさっぱりわからなくなりました。
竜を倒したことで、魔法を失うというパターンも考えうるストーリー展開ですが、どんなものでしょうかね?
4)グレイスの成長は?
悪徳令嬢としてのグレイスの個性は、憲三郎によって大きく変換を遂げています。つまり、自分で性格をなおそうとするんじゃなくて、他力本願なんですね。グレイス自身の成長はどのようになっていくのか。
異世界に行った若者がドラゴンに憑依する話が昔、世界幻想賞ファンタジーにありましたが、若者は結局異世界にとどまりました。この漫画では「現世に戻ってくる」ことが前提として期待している多くの読者がいますし、グレイスが幸せになることも願っています。しかし、いまのところグレイス個人が、どのように「自分で」「自覚して」変わっていっているかは描かれていません。
おじさんが主役だから当然だといわれるとそのとおりなのですが、グレイスにも過去があり、それを知って応援している人もいるわけで、理由もなくいきなり悪役だったグレイスが王妃の道を選んで歩くのは、わたしには不自然に感じます。漫画だからなあ、で終わるのは、いかにももったいない気がする。
ストーリーとアイデアのマッチングが大変なのはよくわかりますが、ファンタジー歴50年のわたしとしては、「結局、目新しいだけの消耗品かな」などと、ちょっと意地悪な視線で見ていたりします。
売れるのはいいけど、残っていく作品を観賞したいものですね。わたしの読んだ有象無象のファンタジーの多くは、いまはどこにも売られていません。70年代は、ファンタジーよりSFの時代でしたから、それも当然かもしれません。「ああ面白かった。つぎなーに?」
と言われて、わんこそばみたいに次々出さなきゃやっていけないプロの世界って、怖いなとも思ったりもします。
生成AIも出てきてるし、ほんっと、今後のクリエーター界は、オリジナリティがすべてになるだろうなと思うと、それはそれで楽しみかなとも思います。
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