ぽん太とおじいちゃん

わしが子どもの頃には、ほれ、あの車が行き来する道には、馬が通っておっての。そこを渡るといちじく畑があったんじゃ。
あれは学校の帰りじゃったろうか。そのいちじく畑を歩いておると、その向こうから、見たこともない神社が見えてきた。屋台のトウモロコシが焼けるいい匂いや、ぴーひゃらてんつく、おはやしや、リンゴ飴を売ってる屋台なんかも並んでた。
わしはもう、ぽかんとして、腰を抜かしかけたものじゃ。

「あれ、きみも化けくらべ大会に来たの?」
一人の男の子が、わしに話しかけてきた。
「――きみは?」
わしは、ぼんやりと、問い返した。
「ぼくはたぬきのぽん太。今日はたぬきのお祭りなんだよ」
そう男の子はいうと、少し影になったところにつれてきた。少しびくびくしていると、リンゴ飴をおごってくれた。おいしそうな赤いリンゴ飴をほおばってみた。今まで、食べたこともないような、すてきな味だった。
夕焼けがリンゴ飴に影を落としていた。少し安心したわしが、夢中でそれを食べていると、ぽん太はにこにこ笑いながら、
「今から、化けくらべ大会が始まる。ちょっと練習をしたいんだけど、つきあってくれるかな?」
そんなことを言い出してきた。
「化けくらべ大会?」
わしが聞き返すと、
「きみも知ってると思うけど、この化けくらべ大会で一等取ったら、みんなにほめられる」
ぽん太は、少し顔を赤く染めて、
「でも、ぼくは一度も化け大会で、一等とったことがないんだ。ぼくは今度こそ、一等をとるんだ!」
いうなりぽん太は、くるりと一回転。
「どうだ、ぶんぶく茶釜だぞ!」
たしかに、茶釜の姿だったけど、なぜかしっぽが釜の外に出てしまっている。
「うーん、なんだかちょっとちがう」
わしは、少し笑ってしまった。
「しっぽや耳が、出てしまうんだよねえ……」
ぽん太は、少し情けなさそうに言った。
「肩の力を抜いたら、きっとできるよ」
わしは助言してみた。
ぽん太は、もういちど、ぶんぶく茶釜になって、綱渡りもやってみる。もう少しで転げ落ちそうになる。
「もうちょっとだよ!」
わしが力づけると、ぽん太は、もう一度、綱渡りをしてみた。
ふらり、ふらり。
高いところが苦手らしくて、なかなかうまく綱渡りが出来ない。わしは、ぽん太が、あきらめないので、応援したくなった。
「下を見ないで、虹を見るように上を見て!」
ぽん太の眸が、きらきらと輝いた。

化けくらべ大会がはじまった。
どきどきどき。
わしは、とても胸が苦しかった。大人のみんなは、とても上手に化けている。ぽん太は優勝できるのかな。
そうだ、ぽん太が優勝したら、村の人たちをつれてきて、一緒にリンゴ飴を食べて遊ぼう。一緒にお祭りを、楽しもう。
たぬきばやしの鳴るやぐらの上。ぽん太はぶんぶく茶釜になった。
「日本一の、ぶんぶく茶釜!」
ぽん太が叫ぶ。
ぶんぶく茶釜は、とても強そうだ。綱渡りをし始める。
おっとっと、綱から落ちそうになったとき、キジやサルや犬まで出てきて、やぐらの上はきいきい、わんわん、大騒ぎ。茶釜はゴングロ、グンゴロ、鳴っている。たぬきのみんなは、犬サルキジと一緒に、盆踊りをはじめた。
ぼくも一緒に盆踊り。右手にリンゴ飴を持って、くるっと腕を振り回す。みんなと肩をならべて歌い出す。
「今回の一等は、ぽん太です!」
そんな声がひびいた。
「よかったね!」
ぼくがいうと、ぽん太はぼくのほうをむいて、
「君のおかげだよ! ありがとう!」
と言ってくれた。

 ふと、気がつくと、わしはいちじく畑のなかに立っていた。
「……夢、だったのかな?」
夕やみが迫っていた。
そして右手の中には、しっかりと、リンゴ飴ではなく、どんぐりが握りしめられていた。
わしは化かされたのかも、しれんのお。了

(次へ) Topへ