子ねこのぼく
ぼくは、早くおおきくなりたい。
ぼくの大好きなしのちゃんは、ネズミの形をしたぬいぐるみや、小さなボールといった、いっぱいのおもちゃをくれた。
テレビをしのちゃんと一緒に見たときには、とってもフシギだった。だって、箱の中で絵がうごくんだもの。人間って、すごいことができるんだなあ、って思ってた。
ぼくが病気になったとき、しのちゃんがぼくのために、ミルクをすごーくぬるく温めてくれた。すごく、すごく、うれしかった。
部屋の中でぼくが、小さなボールにじゃれつく。ぼくの方が足が遅くて、どんくさいんだけど、でもしのちゃんは、遊んだあとはいつもぼくをだきあげて、
「いい子、いい子」
ってほおずりしてくれる。
ある日、ぼくとお母さんが公園から帰ってくると、そのしのちゃんが、横になっていた。
いつもなら、やさしくなでてくれるのに、今日はぜんぜん、なでてくれない。それどころか、しのちゃんは、おなかを抱えて苦しんでいた。
「いたいよう、いたいよう」
しのちゃんが、泣いてる。
「しのちゃんが、病気になった!」
お母さんがそう言って、あたふたしている。にゃあにゃあ、みいみい、鳴き方までいつもと違っている。
「病気? どうして? なんで?」
ぼくがいうと、
「ゴキブリやネズミのせいなんだよ。ああ、私が人間だったら、お薬をのませてあげるのに」
お母さんは、そういうとキッとぼくを見つめた。
「にゃんた。おまえは、悪いネズミとゴキブリを退治する、強い強い桃太郎になるんだ」
「ええっ」
ぼくは、びっくりした。
「ぼくが、桃太郎? 桃太郎って、なに?」
お母さんは、桃太郎の話をしてからぼくの方にかがみこんで、
「それは、にゃんたにしか、できないことなんだよ」
と言った。
こんなぼくにも、できることがあった!
しのちゃんを病気にした悪いネズミを、退治しなくちゃ!
ぼくは、さっそく、台所をたんけんした。ネズミはいなくて、ゴキブリがいた。
ぼくは、ゴキブリをおいかけた。
ぶーん、ぶーん。
ゴキブリは、飛び回ってつかまらない。
ぼくは、涙がぼろぼろ出てきた。
かたきうちできないのが、とってもとっても、いやだった。
しのちゃんは、薬を飲んで元気になった。
そしてぼくは、とうとう、できたんだ。
ネズミを一匹、つかまえた!
「悪いネズミめ、しのちゃんにいいつけてやる」
ぼくは、ネズミを、しのちゃんのところへ持っていった。
「すごい、よくできたね!」
しのちゃんは、ぼくをほめてくれた。
ぼくはすごく、嬉しくてごろごろ鳴いた。
とたん、口にくわえていたネズミが、逃げて行ってしまった。
あーあ。
ぼくは、ひとりで狩りの練習をはじめた。
野原を、ライオンのようにかけめぐる。
ぼくはちっちゃなもうじゅうだ!
がおーっとほえたら、草がなびいた。
野ネズミ発見!
ライオンになりきったぼくに、びっくりしたみたいなようすだった。
ぼくは野ネズミをにらみつけた。
「このあくとうめ、せいばいしてくれる。とうっ!」
野ネズミは、すばやく逃げ始めた。
ちょろちょろっとすばしこかったけど、練習していたぼくには、てんでカタツムリの早さだったのさ。
「今度は逃がさないぞ!」
ぼくは、ネズミを、ぐいっとつかまえた。
涙が出るまで待っただけあった。
ぼくは桃太郎になれたんだ!
草はさやさや鳴って、野原の小川はこぼこぼ言っていた。きらめく夏はもうじきだ。