2010/04/02

一年で一番暗い夕暮れに ディーン・クーンツ ハヤカワ文庫

(ストーリー)
ドッグ・レスキューとして虐げられた犬の救護に情熱を傾けるエイミーは、その夜、恋人のブライアンとともに不思議なゴールデン・レトリバーを助けた。同じ夜、放火を趣味とするある邪悪な男女が、ひとりの少女を破滅させようとしていた。因縁で結ばれた二組の男女の運命の岐路に、突然現れたゴールデン・レトリバーが起こす奇跡とはなにか? 先の読めないストーリー

(感想)
クーンツは、「ウォッチャーズ」という小説で、犬の話を書いています。
それと比較して、思ったんですが、やはり年季が入ってるだけあって、こっちの方がダントツに面白い。

「ウォッチャーズ」には、悪党が途中で死んだりしませんが、この「一年でいちばん……」では悪党が途中で死んじゃいます。
わたしは、悪党が最後で仲間を裏切るとかするのかな、と思っておりましたので、びっくりしました。
割とこの悪党、気に入ってたんですがね。
「セカンドライフ」という、現実にもあるバーチャル世界で、羽の生えた男になりきって、人生を楽しんでるという悪党なんですが、犬が嫌いなんです(笑)
この悪党を読むだけでも、このほんの価値はありますね。

 もっとも、多少、キャラがかぶってるところもあります。
テレサとホープは、はっきり言ってかぶってますね。
特徴も似てるし、障害も似てるし。
年頃も似てるし、性別も似てるし。
少々、種ギレかなーと思ったりもしました。

 悪党を描くときには、こんなにバリエーションが豊かなのにねえ……。
年を取ってきたせいなのかな。
クーンツ、がんばれ!

 ともあれ、最後まで読んでしまいました。
読んで良かったです。
犬への愛がよーくわかりました。
次はネコの話も書いて欲しいですが、クーンツさん。

 多少ファンタジックなストーリーですが、怖くて楽しいお話です。


2010/04/04  龍は眠る 宮部みゆき 新潮文庫 

(ストーリー)
マスコミの高坂がある嵐の日に出会った不思議な少年、稲村は、行方不明の子供がマンホールの穴に落ちたことを高坂に告げる。それがその後に続く悲劇の幕開けであったことを、高坂は知らなかったのだ。
彼が陥れられそうな罠から救い出した超能力者たちの物語。

(感想)
なんといっても、この話のキモは超能力の描写でしょうね。
細かいところまで、よくたんねんに描写されていて、疑い深い高坂が、やがて信じるようになる心の移り変わりも、よくわかるようになっています。
正義感の強い少年の、勇み足から始まった悲劇。
そして、彼への恐れと怒りから、不適切な態度を取ってしまう高坂。
このあたりの心理も無理もなく、説得力があります。

 で、高坂が、身に覚えのない脅迫状を送りつけられるんですが……
この辺の恐怖は、心理サスペンスとしては最高でしょうね。
どんだけがんばって思い起こそうとしても、覚えのないことで
「恨」なんて書かれた手紙が来る。
不気味すぎます。

それにからめるように、七恵という、声の出せない女性が出てきて、高坂が彼女にほれちゃうんですね。
巻き込んではと思いつつも、七恵がてがかりを掴んでいる人物とつながってるので、なかなか切り離せない。
そのうえ、高坂は優しいので、あれこれ七恵のために心を砕く。
この、高坂という人物の造形が、わたしはよかったです。
すり切れた、陰気な男というより、感受性ゆたかなおとなという感じがしました。

 二人の超能力者の描写、対立の構図というのも、なかなかよかったです。
一方は、「人に役立ちたい」
他方は、「無駄なこと」
そして、嘲っていた方が、結局ひとのために命を捨ててしまうんですね……。
残された方は、「存在意義」ということまで考えていくようになる。
重いテーマです。

 宮部みゆきは大好きな作家ですが、ますます好きになりました。
最近どうも売れてないみたいですが、がんばってください。


白戸修の狼狽 大倉崇裕 双葉社

更新

 本が好き! サイトからの献本です(短編連作もの)。
(ストーリー)
底抜けにお人好しな出版社づとめの新人、白戸修。彼は、頼まれた仕事はイヤと言えない上に、わからないことはなんでもとにかく人に聞いてしまう、ちょっと頼りない青年である。彼は、あるときは落書き犯をつかまえる手伝いをし、またあるときはコンサートで搬入の手伝いをし、などとやってるうちに、いつのまにやらヒーローになってしまって……。
 所々、妙にコミカルになり、ちょっぴりほろりとさせられる、新感覚の日常推理小説。

(書評)
この本は、わたしには、大当たりの小説でした。というのも、昔高校の時に、ファンタジーで、この白戸修みたいなキャラクターを考えたことがあったんですよね……。投稿はしませんでしたが(笑)
この物語の最初の、「ウォールアート」は、落書きで苦しむご近所の話をNHKでやっていたのを思い出して、そのまんま書いてるわね~と思ってしまいましたが、主人公がこの落書き事件に巻き込まれていくそのストーリーの流れに不自然さはなく、七倉という人物も、熱血で、たちまちのうちにこの話の語り口に、引き込まれていくのを感じました。
それにしてもほんとに修って、頼りないですよねえ。こんなシーンがあります。


(P19)(引用開始)
歩き出そうとしていた七倉が足を止めた。白戸に向き直ると、大股で近づいてくる。殴られる。目を閉じ歯を食いしばった。(引用終わり)


殴られると覚悟して、逃げることすら考えず、ひたすら受け身の修くん。しかし、こんな頼りない彼が、「ベストスタッフ」では、こんなふうになるんです。


(P101)(引用開始)
どうする……? 飛び込んで捕まえるか、相手が出てくるのを待つか。
自然と目が階段の方に向かう。逃げよう。その欲求が、毎秒ごとにふくれあがっていく。
だが、あと一歩とうところで、仙道をはじめとするスタッフたちの顔が思い浮かぶのだ。
自分一人がにげだすわけにもいかない。(引用終わり)


お人好し、という性格が、ここでも出ているんですが、それ以前に、この修という男の子、ただの「草食系」じゃないな、という感じがします。つまり、パンセの言う「考える葦」と同じで、風になびいているようだけど、根っこはしっかり持っている。臆病なんだけど、「ふぬけ」ではない。自分に与えられた責任について、逃げたい、と思いつつも、立ち向かっていく。


そういうところ、とても気に入りました。そして、だんだん、ヒーローになっていくあたりなんかは、すがすがしささえ、感じました。
過激でもなければ、派手でもない。かっこよさとは無縁の男の子。日常からちょっとはずれただけの世界だけれど、わたしはこんな、身近なヒーローを作れる作者にエールを送りたくなりました。この本は、大事にしていきたいですね。ボロボロになるまで読むかもしれません。

 あと、「本が好き!」サイトのレビューには、こんな風にも書きました。(概要)

 修くん、臆病なふりして、ほんとはとっても骨があります。だんだんと成長していく過程がすがすがしい、青春小説的要素もあるような気がします。
わたしの中で、いちばんほろりとさせられたのは、「タップ」でしょう。盗聴にまつわるお話なんですが、それが意外な結末とつながっていく。盗聴されている彼女の絶望と、焦り。そして、希望に振り回され、疲れてしまった彼女の嘆き。

 愛する人を意識不明にさせられて、残された者は、むなしい希望に傷つく。

 わかる。
すごく、よくわかります。

 だから、わたしはこの女性の言葉に、胸を打たれ、共感しました。

(引用開始)

「そんなことはあり得ないの。病院はいるだけでお金がかかる。私には、もう払いきれないのよ。これ以上、私にどうしろって言うの? もう生きてなんかいたくないの。奇跡? そんものがあるのなら、今すぐ見せてよ」

(引用終り)

 彼女の言葉を読みながら、わたしは、病気で亡くなった母のことを、思い出して、泣いていました。

 彼女の気持ちが、痛いほどわかったから。
 このお話では、奇跡が起きたのですが、わたしの場合は、奇跡は起きませんでした。

 この結末を、安易なハッピーエンドという人も、いるかもしれない。

 けど、わたしは、この結末に、救われたような気持ちになったのでした。 
 最後の、盗聴していたときにハッピーエンドが聞こえてきて、それからすぐに車を走らせるってシーン、何度も読んでしまったのでした。よかったです。

 あと、この本がとても気に入ったので、ブログにも書いていないことを書きます。「ラリー」での、最後のシーンで、フィギュアをとりあいになり、結局私立探偵が殺されそうになるんですが、それを防ぐために白戸が執った手段。これは、面白かった! いかにも一昔前のアニメ的だとは思いましたけどね(笑)

 この本は、大事に取っておこうと思ったほど、アタリでした。
 でも1700円……。
 続きが気になるが、同じ値段だったら、買えないな……お財布が痛すぎる……

 

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